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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)1606号 判決 1963年10月24日

控訴人 阪和商事株式会社

右代表者代表取締役 南元春

右訴訟代理人弁護士 山本正司

控訴人 北出商事株式会社

右代表者代表取締役 北出俊彦

右訴訟代理人弁護士 岡崎赫生

同 山本正司

被控訴人 鳥清畜産工業株式会社

右代表者代表取締役 辻本信千代

右訴訟代理人弁護士 島本哲郎

同 月山桂

主文

本件控訴はいずれもこれを棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

控訴人等は、訴外辻本久生が本件各手形の裏書を為すにあたり、その裏書人の名称として、かねてよりの被控訴人会社よりの許諾に基き、被控訴人会社の名称(商号)を使用したと主張するのであるから、右主張が是認されるためには、何よりも先ず本件手形の裏書人の署名中の名称が、手形裏書行為として通常要請される会社として(ここでは株式会社として)の署名方式を備えていなければならないことは理の当然である。ところで控訴人等が本件裏書手形として提示する甲第一ないし六号証の裏書人欄の記載によれば、訴外辻本久生がなしたと主張される裏書人の署名形式は記名(ゴム印)捺印形式であつて、その記名は、住所(和歌山市元寺町一ノ八、中ブラクリ丁)のほかに、「鳥清支店」を肩書位置に記載した「辻本久生」という表示であることが明らかであるから、右の「鳥清支店―辻本久生」なる名称が、被控訴人会社の名称即ち「鳥清畜産工業株式会社」と同一と認められるか否かを検討するに、「会社の商号中には、其の種類に従ひ、合名会社、合資会社又は株式会社なる文字を用ふることを要す(商法第一七条)」るところから、手形上の会社名称の表示としては、単に他人から宛てられた受取人、被裏書人として略記される場合は別論とし、自ら手形上の責任者として振出、引受、裏書等の署名を為す場合の会社名称の表示は、株式会社については一般にそれが株式会社であることを欠くことなく表示するのが通例であるから、本件手形上の前記裏書人名称「鳥清支店―辻本久生」を以てそれ自体(その全部又は一部たる「鳥清支店」)が株式会社たる被控訴人会社の手形上の表示と解することは著しく困難であり、一般事例に徴すると、右裏書人名称を以て強いて株式会社の表示形式と解せんがためには、ある特定の会社の使用する商号が、たとえその会社名を欠いて手形上用いられていても、右商号が、手形取引の相手となる一般人に対して、通例必ず当該会社を指称するものと解され、同一商号を用いる他の個人の存在は通常想定できない程度の顕著さを持つ場合の如き、特に一般事例に反する特段の事情がなければならないがその主張、立証はない。控訴人等の主張するような、右「鳥清支店」中の「鳥清」なる表示が、被控訴人会社の商号中の「鳥清」に共通すること、及び右「鳥清」なる表示が、被控訴人会社の営業の前身主体である辻本満、辻本信千代の商号として用いられて来た事例が存するという事実だけでは、右の「株式会社」の表示を欠く「鳥清支店」ないし「鳥清支店―辻本久生」なる手形上記載を、当然に株式会社表示と同一と認め、ないしはこれと同視し得る根拠として肯認するには足りない。また被控訴人会社自身が右「鳥清」又は「鳥清支店」を商号として他の機会に使用していた(但し、手形上もこれを使用したという主張はない)としても、それは直ちに、手形上債務者としての署名に右商号が用いられた場合に、他の同一商号を使用する個人人格の存在を推測する可能性を否定することにはならないから、手形上の法人署名の厳格性とその一般事例に対照して、なお「鳥清支店」を以て被控訴人の株式会社と同一視することができない。株式会社なる記載を欠く本件裏書人の表示形式からは、むしろ会社以外のもの、即ち個人企業たる「鳥清支店」又は「鳥清(本店)」(その企業主体が誰かは別論)の代理形式か、又は個人たる辻本久生であつて「鳥清支店」を商号(即ち肩書形式)とするものと認められるのが通常である。控訴人等の全立証によつても右の認定を左右することはできない。そうすると、本件手形が名板貸人とされる被控訴人の名称を以て裏書されたことは認められない。

次に前段認定の本件手形の裏書人の名称が、株式会社の名称と認められない、ということは、本件手形を右裏書によつて取得した控訴人等が、右裏書人を裏書当時に被控訴人会社と誤信して、右手形を取得したとの主張事実の肯定を甚だ困難ならしめるものである。このことは、弁論の全趣旨、殊に控訴人等が原審以来最近に至るまで、本件手形の裏書人を辻本清(原審相被告)であるとの主張を強調して来たことから、少くとも一方には、裏書人は個人(辻本満の経営する「鳥清」の支店)であると信じて本件手形を取得したことを充分推測せしめる点からも窺われ、成立に争のない甲第一三、一四号証、証人蟹井清の証言、控訴人北出商事株式会社の代表者尋問の結果によつても、本件裏書人を単に東和歌山駅前に存在する「鳥清」なる営業の主体であると誤信する外観があり、右誤認を肯定する供述が存するのみであつて、その当時以前に成立していた被控訴人会社と誤認したことの確証は、控訴人等の全立証を通じてもこれを見出すことができない。従つて、右誤認の事実もこれを認める訳にはゆかない。

そうすると、商法第二三条を責任の根拠とする控訴人等の請求はその他の争点、特に被控訴人会社の名板貸(商号使用の許諾)の有無を判断するまでもなく、前記何れの点からするも、その主張は失当たること明白であるから、右請求を棄却した原判決は相当で、控訴は理由がない。よつてこれを棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長判事 岡垣久晃 判事 宮川種一郎 鈴木弘)

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